そうだ、テントウムシの標本を作ろう!

啓蟄の頃って、ほんとに、成虫で冬を越した虫が、動き始めます。

初蝶が飛ぶような日は、テントウムシも、元気に歩き回っていますよ。

ある日、子どもたちが、カメノコテントウをいっぱいつかまえました

いたところへ逃す、とおっしゃるので、そう言わずに全部ください!、と、いただきました。

テントウムシは、いつでもその辺にいるし、足がすくんで展足が面倒なので、あまり標本にしませんね。ほかの人もそうでしょう。小さくて、色も褪せるので、鑑賞に向かないし。

今回は、理由があってたくさんの標本がほしかったので、もらったカメノコテントウを、がんばって、標本にしました。

せっかくなので、テントウムシの標本づくりの方法を、みなさんにもご紹介します。やってみてください。

外出しにくいときは、おうちで標本づくりを練習しましょう。(← 2020年春、コロナウイルスによる外出禁止令が出ていたときに下書きした記事です)

標本づくりは、お料理と同じ。下ごしらえが、重要

昆虫の標本づくりは、お料理とよく似ています。

美しく仕上げるには、展翅・展足の前段階の、「下ごしらえ」が、とても重要です。

虫の絞め方

生きたまま標本にはできません。飼っている虫が死んだときには、すでに腐り始めていることが多いです。そのため、ちょっとかわいそうですが、虫たちは、生きているときに、殺します。

苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね。

胡蝶しのぶ

テントウムシは、酢酸エチルでもいいですが、できれば亜硫酸ガスで殺します。これには即効性がないので、酢酸エチルで絞めてから亜硫酸ガスに移してもいいです。

そんな薬、おうちにありまへん、ですよね。
その場合は、「冷凍締め」か「熱湯締め」か「レンジでチン締め」になります。

成虫越冬の虫に「冷凍締め」はあまり効きませんので、「熱湯締め」が適しています。「さっと湯通し」いたしましょう。

ゴキブリ用の殺虫剤で締めてもいいと思うのですが、やってる人、知らないです。

お魚みたいに後頭部をブスッと刺して締めるとか、イカみたいにチョップで締めるとかは、今のところ、できません。秘孔を見つけたら、おしえてほしいです。

締めた虫は、きれいに水洗いしましょう。
ボウルや洗面器に虫たちを入れ、じゃらじゃらと洗います。テントウムシは、赤や黄色の汁を出しますので、きれいに洗い流しましょう。

汚れがひどい時は、洗剤を加えて、洗います。糞虫とか、ゼリーまみれのクワガタムシとか。

洗剤を入れると水が浸透するので、テントウムシの場合、透明感のある上翅に後翅がベタッとくっついて見栄えが悪くなる(黒い後翅が上翅に映る)ことがあります。その場合は、いったん翅を開き、後翅を上翅から引き剥がして、水を拭き取ったあと、再び収納します。

しかし、伸張した大きな後翅を正しく折りたたんで収納しようとしても、うまくいかない・・・

だんだんイライラしてきて・・・ もうええわ! ブチっ! と、なったりします。

文字で説明するより、直面すれば、わかります。

一晩寝かせましょう

水洗いした虫は、茶こしかザルに取り上げ、キッチンペーパーで水を切ったあと、チャック袋に入れて、一晩、寝かせます。冷蔵庫なら、2、3日寝かせます。

寝かせるのは、死後硬直が解け、付属肢(脚やアンテナ)を広げやすい状態になるのを待つためです。

ここがポイントです!

この状態で、常温で一晩、冷蔵庫なら2、3日、寝かせます。

寝かせる時間が長いと腐敗が始まり、脚やアンテナをピンセットで引っ張ったとき、ちぎれやすくなります。

反対に、硬直が解けていないと、縮んだ脚やアンテナを伸ばそうとしても、伸びてくれません。

亜硫酸ガスに浸ける時間は、濃度と虫の大きさにもよりますが、テントウムシなら、数時間です。水洗いの後で、浸けてもかまわないです。

「むしホルダー」で、仰向け展足

展翅・展足の方法(乾燥標本用に、虫の翅や脚を拡げる方法)は、ネット上にもいろいろ出ています。一つの例として、ご紹介します。

むしホルダー

寝かせた後のテントウムシたちを、チャック袋から出した状態です。

ご覧のように、アンテナや脚を、すくめた状態になっています。

脚を拡げたいのですが、テントウムシは、丸くてコロコロ、クルクル回るので、やりにくいです。

そこで、このような台を用意します。

7mm厚の「のりパネ」(スチレンボード)の切れ端に、テントウムシがおさまるくらいの「凹み」をつくります。

のりパネじゃなくて、発泡スチロールでも、やわらかい木材でも、いいと思います。ツルツルしていない素材の方が、作業しやすいです。

薬さじ、はさみ、ピンセットなど、適当な道具をつかって、グイグイと押して、凹みをつくります。

テントウムシが、きれいにおさまりました。

すでに名称があるのかもですが、「むしホルダー」とでも呼びましょうか。

凹みにすっぽり収まると、虫がクルクル回転しなくて、展足作業がしやすいです。

展足

ピンセットや柄つき針を使って、脚やアンテナを、拡げていきます。
写真は片手ですが、実際には、両手にピンセットを持って、左右の脚やアンテナを同時に引っ張ります。
片方だけ引っ張ると、クルクル回りますから。

強く引っ張ると「ブチッ」と、ちぎれますよ、
どれくらい引っ張ったらちぎれるかは、経験を積んでくださいね。

長く寝かせて熟成が進みすぎてると(腐敗が始まっていると)、ちょっと引っ張るだけで、すぐにちぎれます。
そんな状態になると、もう打つ手はありません。
そのまま乾かしても、黒ずんでしまったり。
残念ですが、その経験を、次の機会に活かしましょう。

寝かせ方が足りないと、死後硬直が解けていなくて、引っ張った脚は、再びすくんでしまいます。
そんなときは、イライラしないで、もう一晩、寝かせましょう。

展足のできたテントウムシを、大きなホルダーに移していきます。

この状態で、乾燥工程に入ります。

生(なま)乾き時の再整形:この工程、とても大切です!

待ち針をつかって付属肢を固定した場合、そのまま自然乾燥すればいいのですが、
仰向け展足の場合、固定していませんので、乾燥時の収縮によって、脚やアンテナが、すくんでしまうことが多くあります。

脚がすくんだ状態で乾いてしまうと、虫を台紙に貼るにも、一苦労します。

そこで、最初の2、3日は、ときどき虫を見てやってください。
脚がすくんでたり、頭がうつ伏せ気味になってる子がいたら、ピンセットでそっと引っ張って、拡げてやってください。

生のときより、もろくなっていますので、細心の注意が必要です。

ここで、ピンセットの性能の差を、実感します。安物だと、作業に耐えられないです。

台紙に貼り付けて、できあがり

温度湿度によっても異なりますが、テントウムシなら、室内で1、2週間、自然乾燥させれば、できあがり。

これは、昆虫針に刺した標本を、専用の標本箱に入れて保存する、標準的なやり方です。

そんなの、持ってない。
という方は、カット綿の上にそっと並べて、チャック袋に入れておくだけでも、保存はできます。

あとは、防虫、防カビに注意して、末長く保存してやってください。

ここには写っていませんが、標本には、いつ、どこで、だれがつかまえたか、という情報を記入した「データラベル」を付けておいてくださいね。1匹ずつ、ですよ。

赤穂市立海洋科学館で展示しました

このテントウムシたちは、2020年8月赤穂市立海洋科学館で行われた特別展示「ひとつずつちがう、昆虫たち」で、展示しました。

何匹いるのかな?

標本箱の中から、写真と同じ個体を見つけ出す、という「むしむしみっけ」です。

ナナホシテントウやナミテントウでもこれをつくってみたいと思いますが、カメノコテントウですらたいへんだったので、地獄の日々になりますね。老眼になる前に、どなたか、がんばってください。

ほかにもいろいろ

カメノコテントウもですが、キチョウやモンシロチョウも、見つけ出すのは、けっこう難しかったです。

赤穂市立海洋科学館での展示は、2021年も、趣向を変えて実施します。お楽しみに!